生命の糸を紡ぐ女神、クロトー遺伝子が細胞老化と関連する?

黒尾 誠 教授(現:自治医科大学)によって発見されたクロトー遺伝子は、「生命の糸を紡ぐ」ギリシャの女神Clothoにちなんでその名が名付けられました。クロトー遺伝子は、老化抑制遺伝子として知られており、マウスにおいて欠損すると「早老症」になり、過剰に発現すると寿命が20%~30%程延びることが報告されています。また、腎疾患、心疾患、アルツハイマー病など様々な病気にも関連性があることが知られています。


ボストン大学の研究グループは、1)クロトー遺伝子は細胞老化と関連があるのか、2)細胞老化に影響がある精神的ストレスとクロトー遺伝子はどのような相互作用があるのか、研究するべく309人の米軍の退役軍人での調査を行いました。対象の多くはイラクやアフガニスタンの戦争に派遣され、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を経験しています。解析の結果、クロトー遺伝子に変異がある場合、精神的ストレスによる細胞老化が促進しやすいことが判明しました。さらに、クロトー遺伝子はPTSDや痛み、そして睡眠障害を含む様々な精神的ストレスと相互作用することが新たに示されました。

また、これまでの研究でクロトー遺伝子は、神経保護や内分泌系の恒常性維持に関与していることや、加齢に伴い発現量が低下することが報告されています。今後は、クロトー遺伝子をターゲットとした細胞老化抑制だけでなく、神経疾患等に対しての遺伝子治療の研究が促進されると予想されます。

この記事に関する論文は、オンライン科学雑誌「Brain, Behavior, and Immunity誌」(2019年8月付け)に掲載されています。

References:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0889159118311875?via%3Dihub